大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和63年(オ)1453号 判決

上告人

東信建材株式会社

右代表者代表取締役

今井功

右訴訟代理人弁護士

斉藤勘造

被上告人

城東建販株式会社

右代表者清算人

藤波繁男

右訴訟代理人弁護士

籾山幸一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人斉藤勘造の上告理由について

動産売買の先取特権に基づく物上代位権を有する債権者(以下「先取特権債権者」という。)が物上代位の目的たる債権につき仮差押えをした後、右債権について他の債権者の差押えがあったため第三債務者が民事執行法(平成元年法律第九一号による改正前のもの)一五六条二項、一七八条五項に基づく供託をした場合において、先取特権債権者が右供託前に更に物上代位権の行使として右債権の差押命令の申立てをしたときであっても、その差押命令が右供託前に第三債務者に送達されない限り、先取特権債権者は、他の債権者による債権差押事件の配当手続において、優先弁済を受けることができないと解するのが相当である。けだし、債権の差押えの申立てをしただけでは、他の特定の差押事件において配当を求める意思が手続上明確になっているとはいえないのであるから、他の債権者の差押事件の配当要求の終期までに、右差押えに係る債権につき差押えの申立てをしたにすぎない債権者は、同法一六五条にいう差押えをした債権者にも配当要求をした債権者にも該当しないというべきであり、この理は、右差押えの申立てが先取特権に基づく物上代位権の行使としてのものであっても別異に解すべき理由はないからである。これと同旨の見解に基づき本件配当表の変更を求める上告人の本訴請求は理由がないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官貞家克己 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄)

上告代理人斉藤勘造の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

一 原判決は、被控訴人(上告人)は2の債権(債務者静和産業株式会社が左の期間内に第三債務者株式会社日創に売渡した本件生コンクリートの転売代金債権金一四二二万六三七五円)のうち1の債権(上告人が昭和六〇年九月一二日から同年一〇月二九日までの間に債務者静和産業株式会社に売り渡した本件生コンクリートの売買代金債権金一三九九万一四七五円)の金額に満るまでの債権について、動産売買先取特権に基づく物上代位権を有していることが明らかであるとしながら、被控訴人は控訴人(被上告人)の右2の債権差押(3事件)に先だち、同債権に対し仮差押をなす(1事件)とともに動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として同債権のうち1の債権額に相当する債権について、債権差押転付命令の申立をしたが、東京高等裁判所が債権差押転付命令を発布した(2事件)のが、被控訴人の債権仮差押及び控訴人の債権差押の競合による第三債務者株式会社日創(以下、日創という)の民事執行法(以下、民執法という)一五六条二項に基づく金一二七八万二六七三円の供託後であったことをもって、第三債務者日創の債務者静和産業に対する債務としては消滅した結果、被控訴人が取得した右債権差押転付命令のうち、右供託金に相当する債権については、債権不存在により、その効力が生じなかったといわなければならないし、また、右債権差押転付命令が右供託金に対してその効力が及んでいるということもできない。

従って、2事件につき東京高等裁判所により債権差押転付命令が発布されたことを、本件配当異議の理由とすることはできない。

また、被控訴人は本件で配当要求の終期までに配当要求したこと及び右仮差押の執行について先取特権者として権利を行使する旨の意思表示を執行裁判所にしたことについて、主張立証がない。

優先弁済権を有する債権者であっても右控訴人の差押債権に対して配当加入するためには、民執法一六五条の方法によらなければならないとして、配当要求の終期までには、債権差押転付命令の申立てをしたのみで、配当要求していない控訴人に対しては、右差押の申立てを根拠に、先取特権に基づく配当要求をしたことに準ずる取扱いはなしえないものといわなければならない。

以上において検討してきたところに従えば、被控訴人は本件供託金について、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として優先弁済権を主張することができないことが明らかであると判示した。

二 しかしながら、以下に述べるとおり、第三債務者の供託は目的債権が絶対的消滅する弁済と同視できず、また、被上告人は債権差押をなしたにとどまり、債権の帰属が移転する転付命令を取得していないから、民法三〇四条一項但書に定める「払渡又ハ引渡」はないというべきである。

また、民執法一九三条は担保権の実行手続の要件を定め、債務名義による債権の強制執行手続と峻別しているが、上告人は配当要求の終期までに民執法一九三条の債権差押転付命令を申立てており、実体法及び手続法上差押が効力を生ずることまで要しないと解すべきであるから動産売買の先取特権に基づき物上代位権を行使するために必要な実体法上及び手続法上の要件を全て充足しているというべきであり、しかも、一般債権執行の競合により配当手続に移行した段階で、東京高等裁判所が民執法一九三条に基づく債権執行抗告事件につき、上告人が債務者静和産業の第三債務者日創に対する売買代金債権につき物上代位により先取特権を行使しうる地位にあることが認められるとの判断を示したのであるから、上告人の優先弁済権の問題であり、一般債権者である被上告人に優先して配当をなすべきである。

民執法一六五条の文理解釈及び民執法八七条一項一号の類推適用により、また、民執法一九三条に基づき担保執行の開始を求める上告人たる申立て債権者の意思及び地位は当然に、執行の一部たる配当のみを求める債権者の意思及び地位を包含すると解すべきだから、第三債務者たる日創の供託が、加入債権者たる上告人の民執法に基づく担保執行の申立後、第三債務者日創への差押転付命令送達前になされた本件の場合、差押債権者たる上告人は、供託前に配当要求をした者として優先配当をうけうるというべきである。

三 動産売買の先取特権に基づき物上代位権を行使するための要件及び効力を検討する。

(一) 最高裁昭五九・二・二判決(民集三八―三―四三一)は、民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには金銭その他の払渡又は引渡し前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によって、第三債務者が金銭その他の目的物を払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対象である債権の特定性が保持され、これにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面、第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、第三債務者による弁済又は債務者による債権の第三者への譲渡の場合とは異なり、単に一般債権者が債務者に対する債務名義をもって目的債権につき差押命令を取得したにとどまる場合には、これによりもはや先取特権者が物上代位権を行使することを妨げられるべき理由はないというべきであると判示した。

そして、右判例は最高裁昭六〇・七・一九判決に引用・踏襲されている。

(二) 実体法上の要件及び効力

1 右判決の「先取特権者のする右差押によって」は、一般に差押は先取特権者が自らなすことを要件とすると解されている。

右判旨は物上代位権行使の要件として、

イ 目的債権の特定性の保持による物上代位権の効力の保全と、

ロ 目的債権の弁済をした第三債務者または目的債権の譲渡人もしくは目的債権についての転付債権者等の第三者の不測の損害の防止とにもとめているが、

他方、物上代位権者の差押前に、目的債権を一般債権者が差押えたにとどまり転付命令を取得していない場合には、物上代位権の行使は妨げられないとした。

2 以上によると、右判旨は物上代位権の目的債権の成立と共に当然に担保権が目的債権上に成立し、物上代位権者は、その担保権の効力を実体法上債務者、その一般債権者に対して主張するには差押を要しないが、第三債務者に対して担保権の効力を対抗するには、自ら目的債権を差押える必要がある。

他方、目的債権に物上代位した担保権は、実体法上、第三債務者の弁済による目的債権の消滅によって消滅し、また、追及力がないので、目的債権が債務者の一般財産への帰属を離れ、譲受人や転付債権者に移転すれば、最早これらの第三者に対しては主張しえないとの意味に解すべきである(竹下・判時一二〇一―二〇三・四、判評三三二―四一・二)。

3 債権差押の競合による第三債務者の供託は債権が絶対的に消滅する弁済及び債権の帰属が移転する債権譲渡または転付命令と同視すべきではない。

即ち、第三債務者の供託により転売代金債権は消滅し、第三債務者は免責されるが、この供託は民執法一五六条二項による執行供託であって、供託金は執行裁判所の管理下に入り、差押債権者等が当然に還付請求権を取得するものではないが、債権者は配当手続を経たうえその配当額の限度で供託金の還付請求権を取得し、配当剰余金が生じたときは、債務者もその限度で供託金の還付請求権を取得するので、いずれにせよ転売代金債権が特定性を維持しながら転化した供託金還付請求権として残されるから、民法三〇四条一項に定める「払渡又ハ引渡」にあたらないと解すべきである。

(三) 手続上の要件及び効力

1 民執法一九三条一項前段は、債権を目的とする担保権の実行は、担保権の存在を証する文書が提出されたときに限り開始すると定める。

この担保権の実行手続と債務名義による一般債権に対する強制執行手続とは、申立の要件が異なり全く別の手続である(浦野・NBL三三七―一八、黒田・日弁連研修叢書六一年版現代法律実務の諸問題上四四二)。

一般債権執行では、手続開始の基礎は債務名義であり、執行開始の要件は執行裁判所の差押命令の発布である(民執法一四三条)のに対し、担保執行では、債務名義に代え、手続開始の基礎となる担保権の認識資料が法定され(中野・判タ五六五―一)、執行開始の要件は同法定資料の執行裁判所への提出である(同一九三条)。

担保権の実行手続に、債権執行に関する規定を準用しているとはいえ、民執法上担保権の実行手続は一般債権に対する強制執行手続とは右のとおり峻別され全く別体系の手続である。

そして、担保権の執行開始のためには担保権の存在を証する文書の提出という厳格な要件を定め、一般債権者との利害の調整を図っている。

2 民執法一五四条一項は、有名義債権者及び文書により先取特権を有することを証明した債権者は配当要求できると定める。

従って、民執法上他の債権者の申立のよる強制執行手続のなかでも、先取特権者は右の証明をなす限り、自ら差押をしないで配当要求の方法により優先権を行使することができる。

3 以上によると、手続法上、動産売買先取特権者が先取特権に基づき物上代位権を行使するためには、配当要求の終期である第三債務者の供託時までに、先取特権の存在を証する文書を提出して民執法一九三条一項による債権差押申立をなすか、同法一五四条一項の配当要求をなすか、いずれかをなせば足りるというべきである。

四 原判決には、民法三〇四条一項、民執法一九三条、同一四三条、同一五四条一項、同一五六条二項及び同一六五条一号の解釈適用を誤った違法、判例違反、及び経験則違反の違法がある。

(一) 先ず、先取特権を有する債権者が、債務名義により強制執行としての債権執行を申立て、差押命令が発せられたが他の一般債権者が同一債権を競合して差押えたり、或いは配当要求をなしたことにより第三債務者が供託し、その配当手続が行われた場合、申立債権者は配当段階で先取特権に基づく優先弁済を主張できるかの問題を検討する。

この問題は、実体法及び手続法上の要件である先取特権者による担保実行の執行申立を欠くから、一般債権による強制執行の申立をしながら、配当段階において優先弁済の主張をすることは原則として否定されるべきである。

但し、既に強制執行としての債権執行を申立てていて、後に他の一般債権者が競合してきた場合であるから、配当要求の終期である第三債務者の供託時までに、民執法一五四条に基づき、先取特権を証する文書を提出して先取特権者として配当要求をすれば優先弁済をうけることができる(黒田・前掲、浦野・条解八八二・NBL三三七―一八)。

最高裁昭六二・四・二判決(判タ・六四五―一六二)は、この問題につき、

動産売買の先取特権に基づく物上代位権を有する債権者は、物上代位の目的たる債権を自ら強制執行によって差押えた場合であっても、他に競合する差押債権者等があるときは、右強制執行の手続において、その配当要求の終期までに、担保権の存在を証する文書を提出して先取特権に基づく配当要求又はこれに準ずる先取特権の申出をしなければ、優先弁済を受けることができないと解するのが相当である、

と判示した。

(二) 本件の場合、即ち、動産売買の先取特権を有する債権者が被担保債権に基づき転売代金債権を仮差押した後、他の一般債権者が同じ転売代金債権を差押たことにより、第三債務者が債務を供託し配当手続が開始した場合について、

原判決理由は、被控訴人は1事件について東京地方裁判所から仮差押決定を取得し、その執行をしたことが認められるが、被控訴人は一般債権者の地位に基いて右仮差押の執行をしたにすぎないから、被控訴人は右仮差押の執行をしていても一般債権者としての地位に基き配当加入をなしうるだけであって、右仮差押の執行を根拠に優先弁済権を主張することはできないとするが、正にそのとおりである。

上告人は一般債権による右仮差押を根拠に優先弁済権を主張しているのではない。

前述のとおり、動産売買先取特権者の担保権の実行乃至行使の方法としては、民執法一九三条の差押申立又は担保権に基く配当要求の手続によることを要する。

動産売買先取特権を有する債権者が一般の保全手続により担保権の被担保債権(転売代金債権)に対し仮差押をした後、他の一般債権者が本差押をしたため第三債務者が供託し、この供託金につき配当が実施される場合、右仮差押につき競合する差押債権者があるときには、配当要求の終期である第三債務者の供託時までに、物上代位権の行使として担保権の存在を証する文書を提出して、民執法一九三条の差押申立又は同法一五四条の配当要求するか、或いはこれに準ずる先取特権の行使の申出をしない限り、優先配当を受けられないと解すべきである(最高裁事務総局編・民事執行に関する協議要録一六五、浦野・条解八八三、黒田・前掲)。

以上によれば、動産売買先取特権者が配当要求の終期迄に前記いずれかの手続をとることにより、「動産売買先取特権を行使する」旨の執行裁判所に対する外形的な意思表示があれば、優先弁済権行使の意思表示があったとみて(小林・判時一一六〇―二二五、判評三二〇―五五)優先配当を受けうると解すべきである。

従って、差押申立があれば、差押が効力を生ずることは必要ではない。

この本件の場合は、動産売買先取特権者が物上代位権の目的たる転売代金債権を一般の保全手続により仮差押した場合であり、右(一)の強制執行により差押えた場合とは事案が異なり、原判決が(一)に関する最高裁昭六二・四・二判決を引用・根拠とするのは誤りである。

(三) 上告人は、配当要求の終期迄に、動産売買先取特権の行使として、先取特権の存在を証する文書を提出して、民執法一九三条の債権差押の申立をなしており、執行裁判所に対して民執法上最も確実というべき優先弁済権行使の意思表示をなしているから、差押命令が第三債務者に送達され効力を生じなくても、優先配当を受けうると解すべきである。

また、上告人が民執法一九三条の債権差押の申立をなしたことは、民法三〇四条一項但書の差押申立をなしたことにあたる。

前述の通り民法三〇四条一項但書の差押は、判例によると、一般の差押債権者に対する関係では、先取特権の効力を主張するための対抗要件ではないが、第三債務者に対する関係ではその対抗要件であるところ、本件では第三債務者が供託したことにより、差押は第三債務者に対しても先取特権の効力を主張する対抗要件たる意味が失われているから、差押が効力を生ずることを要しないと解すべきである。

そして、第三債務者の供託は先取特権の目的債権が絶対的消滅する弁済と同視できず、また被上告人は債権差押をなしたにとどまり、債権の帰属が移転する転付命令を取得していないから、物上代位権が消滅する民法三〇四条一項但書の「払渡又ハ引渡」はないというべきである。

以上のとおり、上告人は動産売買先取特権に基く物上代位権行使の実体法並びに手続法上の要件を全て充足しているというべきである。

ところで、上告人の仮差押及び被上告人の差押による差押の競合により、二重差押関係となり配当手続に移行したが配当手続移行後は優先権の問題となる(小林・判タ五二九―八二)。

右配当手続(配当異議訴訟の係属中)において、上告人は前述のとおり東京高等裁判所より前記転売代金債権につき物上代位により先取特権を行使しうる地位にあることが認められるとの司法判断を得たのであるから、右配当手続においては上告人の優先権の問題となり、上告人は一般債権者である被上告人に優先して配当を受けるというべきである。

配当要求との関係は後述する。

五 上告人は本件配当要求の終期までに配当要求をなしたと解すべきである。

(一) 原判決は、本件に最高裁昭六二・四・二判決を引用し、被控訴人は本件配当要求の終期までに配当要求したとの点については、何等主張立証がない。また、右仮差押の執行について、先取特権者として権利を行使する旨の意思表示を執行裁判所にしたとの点についても、主張立証がないとする。

しかし、前述のとおり、原判決が本件に最高裁昭六二・四・二判決を引用・根拠とすることは誤りであり、また、上告人は配当要求の終期までに、民執法一九三条の債権差押の申立をなしたことにより、民執法上最も確実というべき「動産売買先取特権を行使する旨」の執行裁判所に対する外形的な意思表示をなしているから先行する仮差押の執行について優先弁済権行使の意思表示があったというべきであり、そしてこの意思表示は当然に執行手続の一部である配当要求における優先配当を求める意思表示を包含すると解すべきであるから、配当要求をなしたというべきである。

意思表示の解釈は経験則により合理的になすべきところ、原判決の右事実認定は経験則に違反し右意思表示の解釈を誤ったものであるというべきである。

(二) 債権差押申立て後、その送達前に配当要求の終期である第三債務者の供託がなされた場合、差押命令の申立てに配当要求の効力が認められるかの問題は、債権執行について論ぜられている。

(1) 原判決のように、配当要求の要件を充たしていない(他の差押事件を特定し、これに配当要求する意思が明確になっていない)として否定する見解(稲葉・新実務民訴講座一二―四〇四)もあるが、

(2) これを肯定するのが圧倒的な多数説である。

その理由は次のとおりである。

1 配当要求の効力は申立時に生じるから、配当要求債権者は当然配当をうけることができる。差押命令は、第三債務者に送達されなければ効力を生じない(法一四五条四項)が、差押命令の申立てには、少なくとも配当要求の効力があると考えることができるから、差押命令の申立てが第三債務者の供託前にされていれば、差押債権者も配当等を受けることができる(最高裁事務総局編・民事執行事件執務資料二―四一、浦野・条解七一〇、田中・解説増補改訂版三二九救済の余地がある、近藤・新実務民訴講座一二―二四一、竹田・実務Ⅱ―四三四)。

2 供託が、加入債権者の差押命令の申立て後、第三債務者への差押命令送達前にされたときには、その差押債権者は供託前に配当要求をした者として配当等に与りうる。

債務名義に基づき債権執行の開始を求めた申立て債権者の地位は当然に、執行の一部たる配当のみを求める債権者の地位を包含すると解すべきだからである(中野・民執法下五七八)。

3 民執法一六五条は、配当要求の終期までに「差押えをした債権者」として、差押えの効力が生ずることまでは明文上要求していないから、配当要求の終期までに申立てがなされれば足りる(近藤・前掲)。

4 民執法八七条一項一号括弧書の類推適用を理由とするもの(前掲・民事執行事件執務資料二―四一、浦野・前掲、近藤前掲二四三)。

(3) 原判決も指摘するが、二重の差押命令の発布裁判所が同一であるかぎり、後の差押の申立てにも配当要求の効力を認めようとする見解もある(富越・NBL一九九―一五)。

(4) この問題は、差押命令の申立てに配当要求の効力を認めるべきかの問題であるから、差押命令の申立ては配当要求の要件を充たしていないとする否定説は合理的根拠がなく、肯定説が正しい。

(三) 上告人は、民執法一九三条の差押命令申立を配当要求の終期までになしているから、同申立に配当要求の効力があると解すべきである。

(1) 配当を受けるべき債権者の範囲を定めた民執法一六五条は、「差押えをした債権者」と「仮差押えの執行をした債権者」と区別していることからみると、同条は配当要求の終期までに「差押えをした債権者」として、差押の効力が生ずることまでは明文上要求していないから、配当要求の終期までに差押の申立がなされていれば足ると解すべきである。

しかるに、原判決が上告人の民執法一九三条の差押命令申立に配当要求の効力を認めない最大の理由は、これを認める明文の規定がないというものであり、明らかに民執法一六五条の解釈適用の誤りである。

(2) 配当要求の効力は申立時に生ずるから配当要求債権者は当然配当をうけることができるが、差押命令は第三債務者に送達されなければ効力が生じない。配当要求の終期までに差押の効力が生じていなければ配当をうけられないものとすると差押の申立をなした上告人は配当に加えられないことになり、この結論は配当要求債権者との均衡を欠きいかにも不当である。

また、民執法一九三条の差押申立をなした債権者たる上告人の意思及び地位は「大は小を兼ねる」で当然執行の一部たる配当のみを求める意思及び地位を包含するというべきであり、上告人の右差押命令の申立には少なくとも配当要求の効力があると認められるので、同命令申立が配当要求の終期迄になされた以上、上告人は被上告人に優先して配当を受けうると解すべきである。

本件では民執法一九三条の差押申立から、東京高等裁判所が債権差押転付命令を発するまで、八か月以上経過しており、配当要求債権者との均衡の問題は特に重要である。

(3) 原判決は、、差押申立書に配当要求をなすべき差押事件の記載がされる筈がないとして、差押申立は配当要求の要件が充たしていないとするが、当然である。差押命令の申立に配当要求の効力を認めるべきかの問題であるから、原判決の右理由は合理的根拠がない。

、差押命令を発布する執行裁判所は必ずしも一つであるとは限らないとするが、この場合は配当等の手続に入った際、事件を併合して処理するため(田中・前掲三〇八)、民執法一四四条三項は事件を他の執行裁判所に移送することができることにし、手続一本化の手当をしているのである。本件は二重の差押命令の発布裁判所が同一であり移送の問題は生じないが、二重の差押命令の発布裁判所が同一である限り、後の差押の申立てにも配当要求の効力を認めようとする見解は合理性が乏しい。

、、と合いまって、第三債務者による陳述は常になされるわけではないから、通常事情届に基づいて配当を実施すれば足りる配当裁判所にあっては、配当を受けるべき債権者をすべて把握できない事態が起こりうるとする。

しかしながら、配当要求の終期までになした民執法一九三条の差押申立に配当要求の効力を認めるべきかの問題は、配当手続に移行し手続が一本化した後に起りうる問題であって、本件は正にそうであるが、原判決のいう配当裁判所が配当を受けるべき債権者をすべて把握出来ない事態の発生は先ず考え難い。

また、民執法は、債権執行では、不動産執行(法五一条)と異なり、仮差押債権者の配当要求を認めていない(法一五四条)が、これは仮差押の執行が差押の執行と競合するときは、必ず第三債務者の供託があり、その際裁判所は仮差押債権者の存在を知り得ることになるので当然に(法一六五条)配当を受けうることにした(田中・前掲三二七)ことからみると、民執法は原判決の右の考え方はとっていないというべきである。

(4) 原判決は、差押の競合が生じても、先行の差押えが差押えるべき債権の一部についてのみなされていた場合には、差押債権額は差押えるべき債権の全額にまで拡張される。ところが、差押えた債権に配当要求がなされた場合には、これによって差押債権額が拡張されるわけではないから、配当加入が認められるかどうかは、先行の差押債権者にとって、その影響するところが大きいといわなければならないとする。

しかし、一般債権の差押えの競合については、原判決のとおりであるが、上告人のように優先弁済効を持つ担保権に基づく差押については、一般債権に基づく差押との平等配当を考慮する必要がないから、競合の成否は差押額により判定すべき点で変わりなくとも、その差押効が拡張することはないと解される(藤井・注解4―四六一)。

また、平等主義を原則とするわが国の執行制度では他の有名義一般債権者や担保権者による割込み(配当加入)を差押債権者は当然覚悟すべきであって転付命令の制度があるのに、特に転付命令を利用せず単に差押だけした一般債権者は、先取特権者の割込みは十分予期していた筈であり、先取特権者の物上代位権の行使を認めても何らその保護に欠けることにならない(小林・ジュリスト八二六―九八)。

本件においては、上告人の仮差押が先行しており、被上告人が転付命令を得ても無効である(法一五九条三項)から尚更である。

(5) 先取特権者が債務名義により強制執行としての債権差押申立をなし、差押命令が発せられた後、他の一般債権者が同一債権を競合して差押たことにより第三債務者が供託したことにより、その配当手続が行われた場合、配当要求の終期までに先取特権者が先取特権の存在を証する文書を提出して配当要求をなしても、その配当要求は先取特権の行使としてなしたものであり、債権差押申立は強制執行としてなしたものであるから、趣旨が異なり配当要求は先行する自已のなした債権差押申立の関係で二重起訴の問題を生じない。

これに反し、本件において、上告人が先取特権の存在を証する文書を提出して、先取特権の行使として民執法一九三条の差押申立をなした後、配当要求の終期までに同一文書を提出して配当要求をなしたと仮定すると、上告人は民執法一九三条の差押申立を東京地方裁判所により却下され執行抗告したが、同裁判所では配当要求も取扱いを異にすることは考えられないから、先ず却下されたと考えられるところ、これに対しても執行抗告した筈である。

そうすると、配当要求及びその却下決定に対する執行抗告は手続を複雑にし、原判決のいう簡明な手続により迅速円滑な執行を図ろうとする民執法の基本的な考え方になじまないばかりか、後行の配当要求及びその却下決定に対する執行抗告は先行の差押申立ないしその却下決定に対する執行抗告と先取特権の行使の趣旨である点で同一であるから、二重起訴禁止(民執法二〇条、民訴法二三一条)に違反し、当然に不適法となると解される。

(6) 債権執行においては、超過差押えの禁止が厳密に貫かれることはないため、その要請が厳格に貫かれる動産執行の場合とは異なって配当要求を制限しなければならない要請はとくに強くは存在しない。その点で不動産執行と似ている(三ケ月・民執法三八七)。

不動産の強制執行・競売においても、申立てをしただけでは差押えの効力を生ずるわけではない(民執法四六条一項、同一八八条)が、民執法八七条一項一号括弧書は配当要求の終期までに「申立てをした差押債権者」は配当等に加えることとしている。

原判決は、民執法一六五条に配当要求の終期までに差押の申立をした者も含まれるという趣旨の文言がないというが、右(1)のとおりこれは誤りであり、原判決指摘の配当源資の問題も差押にかかる財産という意味では同一であるから、債権執行に不動産執行の配当を受けるべき債権者の範囲を定めた民執法八七条一項の類推適用を否定する根拠とはならない。

右のとおり債権執行は不動産執行と酷似していること及び最高裁昭六〇・七・一九判決が法律上差押の競合があるとはいえず適法ではない第三債務者の供託を民執法一五六条二項の類推適用により有効とし先取特権者の優位を明らかにしたことからみて、債権執行の規定が準用される本件上告人の民執法一九三条の差押申立に民執法八七条一項一号を類推適用し、配当を受けるべき債権者に加え優先配当をなすべきである。

六 右のとおり、上告人は配当要求の終期までに、先取特権の存在を証する文書を提出して民執法一九三条に基づき差押え申立をなしたこと、及び被上告人の配当要求により開始された配当手続において東京高等裁判所より上告人は前記転売代金債権について物上代位により先取特権を行使しうる地位にあることが認められるとの司法判断を得たことは、優先配当をうけるべき本件配当異議の理由となるというべきである。

以上によれば、原判決には、民法三〇四条一項、民執法一九三条、同一四三条、同一五四条一項、同一五六条二項、及び同一六五条一号の解釈適用を誤った違法、判例(最高判昭五九・二・二、同六〇・七・一九)違反及び上告人の優先弁済権行使の意思表示の解釈を誤った経験則違反があり、これらの違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例